東大マネキン実験のおかしさ

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東大マネキン実験の概要

  • 東大マネキン実験では効果有りだが日本はマスクして陽性者世界一
  • 現実に則していない何かがあるのではと考えるべき

内閣官房が提供する新型コロナウイルス感染対策で参照されている研究としては、いわゆる東大マネキン実験と富岳での一連のシミュレーションがあります。

まず既に説明したように、現実社会では全く効果を出せていません。しかし東大マネキン実験では効果有りとなっています。ここで、東大マネキン実験は現実に則していない何かがあるのでは無いかと考えるべきです。検証していきます。

まずは東大マネキン実験の概要を、東大のページ[2]から抜粋します。

東京大学医科学研究所感染・免疫部門ウイルス感染分野の河岡義裕教授らの研究グループは、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の空気伝播におけるマスクの防御効果とマスクの適切な使用法の重要性を明らかにしました。

(中略)

本研究では、バイオセーフティーレベル(BSL)3施設内に感染性のSARS-CoV-2を噴霧できるチャンバー(注2)を開発し、その中に人工呼吸器を繋いだマネキンを設置して、マネキンに装着したマスクを通過するウイルス量を調べました。その結果、マスクを装着することでSARS-CoV-2の空間中への拡散と吸い込みの両方を抑える効果があることがわかりました。また、N95マスクは最も高い防御性能を示しましたが、適切に装着しない場合はその防御効果が低下すること、また、マスク単体ではウイルスの吸い込みを完全には防ぐことができないことがわかりました。


現実と何が乖離しているのか?

  • N95を装着する一般人はほとんどいないから現実世界とは関係無い
  • 20分間咳をする人と向かい会うのもどうかと思うが置いておく
  • 時間がもっと経過した場合はどうなるのか

さて、実験の設定はどこと現実と乖離しているのでしょうか?

まず N95 や更に N95 をフィットテストしてマスクを装着する人は現実にはほとんどいませんので、この結果は現実世界には全く反映されません。布マスクと不織布の結果だけ見ればよいでしょう。

「聞き手だけがマスクを着用」や「話し手だけがマスクを着用」した場合、布マスクや不織布で47%から70%の効果が削減効果があったとしています。(なお英語の元論文では「Spreader(拡散者)」と「Receiver(受け側)ですが、内閣官房の資料で「話し手」と「聞き手」となっているので本稿でもこちらの表記を採用します。)

論文中では「simulating a mild cough at a flow speed of 2 m/s (2) for 20 min」つまり「2メートル毎秒のおだやかな咳を20分間」と書かれています。20分間咳をする人と向かい会うのもどうかと思いますが、それは置いておきます。ともかく20分間の実験結果に過ぎません。

時間経過と時間が経てば結局は空気中にウイルスが充満していきますが、その考察がありません。例えば論文3 では、マスクに防御効果がありそれがずっと継続するにせよ、換気をせず時間が経てば結局は感染率が話し手がマスクをしていてもマスク無しの場合と同程度になっている結果が示されています。

また感染価という問題があります。実際にどのくらいの数のウイルスに曝露すると感染するのかを調べたところ、10 TCID50 という結果のもの[4]があります。つまり10個のウイルスに曝露するだけで50%の人が感染してしまうということです。これではマスクで数十%の削減効果があったとしても感染率に影響は出ないでしょう。


聞き手側のグラフの不思議

  • Cの図とDとEの図で同じ項目なのに違う値になっている箇所がある
  • Cの図の値を採用すれば聞き手はマスクしない方が受けるウイルス量少
  • 感染源になるからという理由でナースキャップが廃止された
  • 長時間のマスクがむしろ感染源になるのは当り前

聞き手側の結果をよく見ると、むしろ陽性者数世界一となった現実世界の現象を示唆する結果があることが分ります。

論文から抜粋した C の図での話し手が、マスク無し、布マスク、不織布マスク、である場合は、図D と図E では矢印で示す対応になっている筈です。しかし何故か絶対値、つまり各棒グラフの高さが異っており、高くなってしまっています。

上の図Cの棒グラフを採用してもよいのなら、話し手が布マスクをしている場合(図D)、話し手が不織布マスクをしている場合(図E)、どちらにおいても、聞き手がマスクをしない方が、布マスクや不織布マスクに比べて受けるウイルス量が少ないという結果になってしまっています。

マスクを付けていた方が感染し易いという結果が出ることはむしろ自然で、ナースキャップが何故廃止されたかといえば、ナースキャップがむしろ感染源となることが分ったからです。口元を覆った物をずっと取替えずに使い続けるとどうなるか、少し考えれば分ると思うのですが、いかがでしょうか。


結論には論文の限界も書いてある

  • 論文の最後には、条件により空気中でウイルスが残る可能性が示唆
  • 時間経過でどう変るかも検討する必要があると書くべきでは

It has been reported that the stability of the virus in the air changes depending on the droplet/aerosol components, such as inorganics, proteins, and surfactants, suggesting that the permeation efficiency of masks is also affected by the components of viral droplets/aerosols.

ウイルスの空気中での安定性は,無機物,タンパク質,界面活性剤などの飛沫・エアロゾル成分によって変化することが報告されており,マスクの透過効率もウイルス飛沫・エアロゾルの成分によって影響を受けることが示唆されている。

結論には、論文の限界も書いてあることが一般的です。東大マネキン論文においても、上のように書かれており、空気中でウイルスが残る可能性が示唆されています。本来であれば更に長い時間が経った場合は別途検討する必要があるということを書くべきだと筆者は考えます。

いずれにせよ、繰返しますが、まず現実世界での整合性が取れているかが一番大事なことで、違う結果が出ているのなら、何故その乖離が起きたのかの考察が重要です。東大マネキン研究は仕組みの解明を目指した研究とはいえても、エビデンスレベルとしては最低ランクの研究であることに注意が必要です。


補足資料: 時間経過に応じた感染確率の推移

  • マスクに効果有りとしても時間経過により感染率は上がる
  • 換気の方が効果あり

  • 注: 画像は東大マネキン実験論文では無く、Higashi2022 [3]より引用

Higashi2022 [3] の実験では、実験室で様々な種類のマスクをしてもらった状態で声を出してもらい飛沫の透過率を計測。その結果を元にシミュレーションにより感染者が講義室にいたときに時間推移による感染確率をプロット。不織布マスクによる感染確率低下が10%と計算されているものの、結局は換気の効果に比べれば非常に低いことも同時に示されています。


参考文献

  1. UEKI, Hiroshi, et al. Effectiveness of face masks in preventing airborne transmission of SARS-CoV-2. MSphere, 2020, 5.5: e00637-20.
  1. 東京大学医科学研究所新型コロナウイルスの空気伝播に対するマスクの防御効果
  1. HIGASHI, Hidenori, et al. Measuring the effects of respiratory protective equipment and other protectors in preventing the scattering of vocalization droplets. Industrial Health, 2023, 2022-0180.
  1. KILLINGLEY, Ben, et al. Safety, tolerability and viral kinetics during SARS-CoV-2 human challenge in young adults. Nature Medicine, 2022, 28.5: 1031-1041.

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